音楽教室について

4.個人経営の音楽教室よりも高い

2019年10月31日 16時17分

レッスン料金をはじめとする費用は、個人経営の音楽教室に通う場合よりも高くなります。個人教室ですと、週1回のレッスンで月5,000円くらいからになりますが、大手音楽教室だと6,000円くらいからになり、しかもグループレッスンになってしまいます。グループレッスンでは、1クラスにレッスン生が何人もいて、ひとりずつ弾いていくとすると自分の子が演奏できる時間は何分の一になってしまいます。これでは上達は望めません。
すると個別レッスンのコースを選ぶしかないのですが、もちろんグループレッスンよりも高くなり、7,000円くらいからになります。

 
  •  4.⑴JASRACが著作権料を請求?

もしかしたらレッスン料に跳ね返ってくるかもしれない問題なので、触れておきます。
2017年、JASRACは2018年初から、音楽学校で使用される楽曲について著作権料を徴収すると発表しました。
JASRACとは、「一般社団法人・日本音楽著作権協会」のことで、著作権料の徴収という、細かくて複雑で時間も手間もかかる仕事を、著作権者に代わって行う「著作権管理事業者」のひとつです。「ひとつです」と書きましたが、JASRACは国内外の350万曲にもおよぶ楽曲の著作権を管理しており、そのシェアは90%を超えていますので、日本の音楽界でほぼ独占的に事業を行っている団体と言えます。そのJASRACが、音楽教室での楽曲演奏について、著作権料を徴収する方針をとったわけです。
ヤマハ音楽教室やカワイ音楽教室は、当然のことながら反発しました。2社を中心に「音楽教育を守る会」という団体を立ち上げ、JASRACと法廷闘争も行っています。
両者の立場を整理します。
 
⑵JASRACの立場
CDなどの売上が減り続けるなか、JASRACは今までも、著作権料の徴収範囲を広げることで減収を食い止めようとしてきました。音楽学校は、JASRACの幹部によると「演奏権の対象の中でとりこぼしてきた最後の市場」とのことです。
「教育の場での演奏なのに、著作権料はらうの?」という疑問があります。たしかに著作権法は「学校での演奏」は著作権料が発生しない例外としています。
ただ、ここでいう「学校」とは、「組織的・継続的教育活動を営む教育機関であって、営利を目的としないもの」とされ、「演奏」の範囲も限定されていて、文部科学省管轄下にある学校法人で、カリキュラムにもとづいた授業の中での楽譜コピーや演奏を指します。同じ学校での演奏でも、授業以外の有料イベントだったり、あるいは有料の部分があるイベントに人を呼ぶための無料パフォーマンスだったりする場合には著作権料が発生します。
 
音楽学校はというと、塾や予備校と同様に思いっきり営利団体ですから、この例外には入りません。したがって、著作権料を納めるべきである、というわけです。
さらにJASRACは、「音楽学校はものすごく儲けてるじゃないか」と言います。たしかに、業界全体で700億円市場とも言われますので、ほんの数パーセントくらいは払ってもいいんじゃないかという気もします。

⑶音楽学校・一部アーティストの考え
音楽学校は、もちろんそんなことをされたらもうけが減ります。ですから「音楽教育の破壊だ」として反対しています。
また、著作権料を受け取る立場にいるアーティストや音楽業界関係者にも複数、JASRACの方針に疑問を呈する人たちがいます。宇多田ヒカルさんは「もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで無料で使って欲しいな」とツイート。「残酷な天使のテーゼ」の作詞家・及川眠子さんも自身を「JASRAC正会員の一人」としつつ、「営利を目的とする場での演奏であるなら、当然楽曲の著作権使用料は払うべきものだと思う。だけど、音楽教室で「練習のために」弾いたり歌ったりするものから、使用料をもらいたいと思ったことなどない」とツイートしています。
 
⑷どっちが正しい?
さて、どちらが正しいのでしょうか。
純粋に法律的に考えると、JASRAC側に分があります。著作権法に規定されていることですから、むしろ今まで徴収してこなかったのがおかしい、ということになります(だから幹部さんが「とりこぼしてきた」と言っているわけですが)。
また、大手音楽教室の現状を考えると、少々の著作権料は痛くもかゆくもないのではないかという観測もあります。多くの音楽教室では、レッスンで用いる楽曲は著作権期限切れのクラシックが大半で、それ以外でもオリジナル曲を使っているからです。
さらにスケールメリットで、会社全体の収益性に対する影響も相対的に小さくなります。
 
ただ、個人経営の音楽教室のうち、歌謡曲、ポップスやジャズなどを多くレッスンに使うところは痛手を受ける可能性があります。やむをえずレッスン料に上乗せせざるをえなくなるかもしれません。著作権料のレートを2.5%とすると、5,000円のレッスン料が5,125円に、など。
 
あとはバランスの問題でしょうか。ある音楽評論家の方は、「JASRACのやっていることは音楽文化への圧迫だ。音楽文化の振興という、JASRAC本来の任務に完全に逆行している」という趣旨のことをおっしゃっています。
著作権料のレートの設定が高すぎれば、そういうことになるでしょう。音楽学校の収益を圧迫して経営をあやうくさせれば、音楽教育を受ける機会が減ってしまい、音楽文化は枯れてしまいます。または、レッスン料の値上げという形で消費者側に負担が来れば、音楽教育を受けたいという人が減り、やはり音楽文化の危機をまねきます。
 
⑸夢だけしかない若手音楽家の現状
2017年の初めに『カルテット』というドラマが話題になりました。青春などとっくにはるか彼方に遠ざかった年代の男女の、すれちがう恋模様が切ないストーリーでしたが、その一方で背景になっていたのは「音楽家の生活」でした。
ひとことで言って、あまり豊かではないのです。ドラマ中の4人の演奏技量はなかなかのものでしたが、それでも演奏の機会は得られにくく、得られたとしてもさほどの収入にはならなかったようです。
 
日本の若手音楽家は、だいたいそれと似たような生活をしていると考えられます。音楽活動だけで見たら完全に赤字で、ほかに音楽とは関係のないアルバイトをして、なんとか生計を立てているのが現状でしょう。
吉本興業の芸人さんを見ると、ある程度具体的な感覚がつかめるでしょう。年収が数億円に達する「大御所」の人数比は数パーセント、数千万円の「中堅」は10パーセント以下、のこりの「若手」は90パーセントを占めますが、この人たちは無給か、もらえても月数万円程度です。売れている先輩芸人にしょっちゅうおごってもらって、何とか飢え死にしないで済んでいる、という話です。
音楽業界全体も似たような構造です。音楽家は「なるまで」も「なってから」も、もともといろいろとお金がかかるものですので、音楽家たちの実家はそれほど貧しくないことが多いため、多少は救われているでしょう。しかし、それでも大半を占める若手音楽家は「音楽活動だけでみると赤字」なのです。
JASRACの問題とは直接関係ありませんが、音楽文化の今後ということでは、考えておかなければならない問題でしょう。
ひとつ確かなのは、大手音楽教室では「音楽活動をどうやって生業として成り立たせられるか」は教えてくれないということです。それに比べると、個人経営の音楽教室では、その経営者自身がそうした苦労を知っていますので、親身になって相談してくれる可能性が高いでしょう。